手銛塾

古代の銛先


「ここでの説明や図解は、文献などから転用したものを忠実に判り易く記載したものです。」

縄文早期に出現した北方系の銛頭(開窩式)は、北海道と青森県に分布しています。
平成12年度の発掘調査により、この銛頭が縄文前期には宮古市崎山貝塚まで南下していた
ことがわかりました、下の画像は
開窩式銛頭(かいかしきもりがしら)と呼ばれております。


崎山貝塚から発見されたロケットのような形をした銛頭で、動物の骨か角を使って作られています。
まん中のくびれた所に紐を結びつけて、裏側のくぼみに柄を差し込んで使ったと考えられています。 
縄文時代、崎山貝塚。




この様な銛先を、回転銛・反転銛・離頭銛・開窩銛などと呼び方も様々で、現代で言うチョッキ銛のルーツです。
古代の手銛は、獲物の体内に打ち込まれた銛頭が、紐を引っ張ることにより回転して抜け難くくなり、獲物を引き寄せて捕獲していたと推測されます。
現代私らが扱う手銛は、銛頭を貫通させる為に改良を加え、性能を向上させて有ります。

崎山貝塚ではオットセイなどの海獣(かいじゅう)類も出土しています。
おそらく北の海から海獣などを追って南下した人々が、この銛頭を伝えたのだと考えられます。
尚、上記の銛頭は文化庁主催の「発掘された日本列島2001−新発見考古速報展」に出展されました。
(宮古市教育委員会社会教育課より)



(ぞく):石で造った石鏃(せきぞく)をアスファルト(タール)で接着し鋭い先にしたものもある。

逆鉤(ぎゃくこう)・逆刺(さかさし):獲物の体内に刺さった銛頭が、ぬけにくくなる。

索孔(さっこう):ひもを通す横穴。

尾鉤(びこう):根元の部分に反りがあり、これによって獲物の体内にねじれてくいこむ。燕の尾に似ている。

茎槽(けいそう=縦穴):凹部にし、柄を差し込む。
[離頭銛T]

中央の穴に下から紐を通し、結び玉や、ループなどを作って縛り、止めていたと考えられます。
カエシの部分が二又に分かれ、燕(つばめ)の尾に似ていることから燕形銛頭などとよばれている。
長さ8.2cm。
縄文時代、北上町泉沢貝塚。


(画像元・文化庁文化財部伝統文化課)
[離頭銛U]

上記の物と形状が違う点を除けば、用途は同じである。
この種の銛先は、その形と機能から
燕形離頭銛ともよばれる。
長さ5.3cm。
縄文時代、石巻市沼津貝塚。


(画像元・文化庁文化財部伝統文化課)
[離頭銛V]

鹿角で作られた古代銛は様々な形状が有り、魚種や魚体などで使い分けられたとも考えられる。
現代でも十分使える古代人の知恵の結晶と言えます。
右上長さ5.4cm。
縄文時代、河北町南境貝塚。


(画像元・文化庁文化財部伝統文化課)
[離頭銛W]

鹿角で作られた離頭銛は銛頭が獲物の体内で回転し、紐とT字状になり、抜けにくくなります。
この様な銛先を回転銛などとも呼びます。
優れた豊富な形状は現代のチョッキ銛以上と言えます。
長さ約、5cm〜8cm
縄文時代、石巻市沼津貝塚。


(画像元・東北大学総合学術博物館)

縄文時代の漁撈(ぎょろう)は、すでに網漁・釣漁・銛漁など、現在とほとんど変わらない漁具を使った漁法がとられていたそうです。特に三陸海岸に暮らす人々は、「銛漁の名手」であったと考えられ、沢山の漁具が貝塚などから発見されているそうです。
数多い銛頭から、特に機能的に優れていると思える離頭銛(りとうもり)を数点、上記にてご紹介しております。

銛は魚を獲る為の「柄」のついた刺し具を投げて使っていたそうです。先端は銛頭(もりがしら)といい、鹿の角でできている物が多く、獲物に突き刺さると、柄から外れて銛頭だけが獲物の体内に残ります。
銛頭につけてある紐をたぐり寄せて獲物を確保したと考えられ、現代と何ら変わりの無い漁法です。
これらの銛頭は、マグロやタイなどの大型の魚に有効だったと考えられています。

上記の事柄は、現代の捕鯨・カジキマグロの突きん棒漁などでも受け継がれております。
それは、我々が使う手銛でも受け継がれていて、延々と後世に引き継がれるノウハウだと思います。
下記にある銛先の画像は、この離頭銛を応用して造った物です。
古代より伝わる先人の知恵がこれ程優れていた事を知り、ただただ関心するばかりです。

(ここで引用した画像等は、個人の研究目的として使用許可を得ており、その著作権の保護に定められた規定を厳守しております)



古代の銛先の復元
<梅田式、復元銛頭 ・ 材質、SUS440C ・ パターン、三面ダイヤカット>

古代銛から学ぶ1
私は、こんな銛頭も造っております。
上記の「離頭銛」から学んだ作品で、近代式復刻版といえる、焼き入れした440c銛頭です。

古代は麻など樹木の繊維で糸を作っていたと考えられ、細い麻糸などは弱く、穴と擦れて簡単に切れない工夫として考え抜かれた物なのでしょう。 
古代もこのように使われていたと仮定すれば、ライン切れを軽減させる為の、非常に優れた工法です。

古代銛から学ぶ2
横から見て、ラインの結び玉が皿面に納まっているのが判ると思います。
すなわち、刺さった時に結び玉による抵抗も有りません。


この結び玉方式ですと、太いラインでは玉が大きくなり過ぎて、出っ張ってしまう為、良いとまでは言い切れません。
使用したラインは最強のモンスターライン、ザイロンノット50号です。
結ぶ部分だけ芯糸を抜いて有る為、結び玉も小さく出来ます。
残りの芯糸は抜かないで使うのがポイントです。
古代銛から学ぶ3
ここで改めて初心に戻り、皆様方におかれましても、古代の銛頭の優れた点を認識して頂きたいものです。

近代においては、硬い鋼材にも恵まれており、古代に見られない皿もみも可能です。
440cなど硬い材質なら、小穴の皿もみが大き過ぎない限り、強度に問題なく使えます。

但し、一般的なSUS304は、このような加工をして銛先として使用するには強度が弱く、
硬度の高い材質を使用するのが無難です。
尚、現在は丈夫なモンスターラインが開発されており、神経質になる事も無いと考えております。


※回転し易い為、刺さった後の安定感に欠けて、マイナス面を感じたので現在は製作しておりません。
実戦で何度も使い、確かな物として製作販売する事が、当方の理念です。
私はこのように、利点も欠点も公開しておりますので、安易なコピーをしないようにお願い致します。







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